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Jacquou le croquant ジャック・ソード/選ばれし勇者

フランス映画 (2007)

ナポレオン敗北後の王政復古の時期(1815-30)を時代背景とし、農民の搾取に走った過激な王党派の伯爵の領地内の森に住む小作農の息子の苛酷な少年期と、一揆の中核となっていく青年期を半々に描いた歴史大作。一番気に入られないのは、ビデオスルーされた時のあまりにひどい邦題。原題の“Jacquou le croquant”、Jacquouは主人公の名前ジャクー、croquantは一揆を起こした農民を意味する。どこを押すと「ジャック・ソード/選ばれし勇者」という題名になるのか? ジャックはジャクーの英語読みとしても、ソードは何だ? これでは字幕も間違いだらけに違いない。尤も日本版など購入してはいないが。さて、フランスの子役の中でも、最も美少年で可愛い子役の1人レオ・ルグラン(Léo Legrand)が、前半部分の主役を担っている。父を伯爵の傍若無人で酷薄な対応で死刑にされたジャクーが、悲嘆にくれる母まで失い、住む家もなく、これ以上は悪くならないという最悪の逆境にまで落ちていき、最後は雪の中での死を選ぶまでの悲壮な物語だ。後半は、ガスパール・ウリエル(Gaspard Ulliel)が青年期を務める。危うく死を脱したジャクーは、彼を助けた司祭のもとで育ち、父母への恨みを果たすべく一揆の中心人物となっていく。演技は、レオの方が抜群に上手い。ガスパールは平凡。

伯爵一行の鹿狩りの途中に、ジャクーの飼っている犬が割り込んで鹿狩りが人狩りに替わり、成り行きから男を射殺した父は、元ボナパルト軍の大佐だったことがバレ森へと逃げる。しかし伯爵が約束した莫大な報奨金100ルイ(牝牛100頭分)により密告されて逮捕。やらせ裁判で30年の禁固刑。しかも入牢最初に日に、逃亡しようとしたと殺害された。家を失った母子は、殺人犯の家族といくことで村人との接触を禁じられ、悲しみと寒さと疲労で母も他界。ジャクーは、雪の中を乞食のようにさ迷う中、教会の墓地で凍死しよう裸になって雪の中に横たわる。偶然気付いた司祭と、一緒にいた医者のシュヴァリエ(騎士)に助けられ、一命を取りとめる。後半は、レオが出て来ないので簡単に触れると、伯爵は、何かと目障りなジャクーを村人に気付かれないように抹殺しようと、城の地下にある井戸に投げ込む。ジャクーは凄まじい意志の力で何とか脱出すると、伯爵に対する一揆のシンボルとして大活躍し、最後は王の退位により裁判にも勝利するというハッピー・エンドになっている。

映画の撮影が始まる前にレオ・ルグランの写真がネットを飾ったが、その時のあまりの美少年ぶりに期待して映画を観たが、役柄は貧しい農民から浮浪児。きれいな顔は長く垂れた前髪で覆われ、あまりの変身ぶりにがっかりした。演技の内容は多様ではないが、見ていて、後半のガスパールなど寄せ付けないカリスマ性が感じられる。


あらすじ

伯爵一行の鹿狩りを邪魔した犬を追って来た農地の管理人が、銃で犬を殺すが、その弾が跳ねてジャクーの母に当たる。怒った父が銃を持って出てきたのを見て撃ち合いになり、管理人は射殺。父は、元ボナパルド軍の大佐だけあり、射撃の名手なのだ。後続の本隊が来る前に、父は森の中に逃亡した。やって来た伯爵と検察官は、家捜しの結果、隠してあった大佐の任命辞令を発見、第一級殺人罪で逮捕することに決定してしまう。
  

クリスマスの日、ジャクーの母は息子を連れて伯爵の城の領民参賀に訪れる。そして、「伯爵様!クリスマスの日に、あなた様のご慈悲を」と懇願する。しかし、傲慢な伯爵は、「わしに、直談判など、とんでもない」。そして、部下に「報奨金は?」と訊き、「20ルイ」という返事に、「褒美を 2倍にする」「いや、もっとだ。100にする」「ボナパルト主義の反逆者に100ルイだ!」と言い放つ。「ご満足かね、奥さん?  すぐに 正義は行われるであろう」「もう一つ。報奨金は、死体にも払われるであろう」「メリー・クリスマス」。唾棄すべき人間のクズ。
  

父に密告による危機が迫っていることを伝えるため、ジャクーは狼のいる夜の森を1人で抜け、雪原を越えて隠れ家に歩いていった。しかし、着いた時、もう警官隊が取り巻いて突入するところだった。一緒にいて撃たれた友人の命を救うため、自主的に捕まった父。逮捕されて乗せられた馬車を、雪道にしゃがみこんで涙ながらに見送るジャクー。悲しいテーマ音楽と、舞う雪、前髪でほとんど顔の見えないジャクー。とても印象的なシーンだ。
  
  

再び野山を越え、父の逮捕を母に報告に戻ったジャクー。「捕まっちゃたよ!」。涙は凍りつき、顔中雪と氷がこびりついている。「いい子だから、落ち着いて」「強くならないと、ジャクー」「父さんには、私達が 必要なの」「神様は、お見捨てにならない」。
  

裁判に出廷するため、母子は町に出てきた。田舎育ちのジャクーは町で少年スリに荷物を盗まれる。裁判への出廷は、子供だからと拒否。何とか裁判の様子を知りたいジャクーは、裏に回って窓から覘こうとするが、そこにさっきの少年スリ団が。「僕の父さんだ!  父さんが見たい!」「登らせて!」というジャクーに、「幾ら払う?」「金がなきゃ、見せられれねぇ」「狂った犬だ。痛めつけてやれ」と言って足蹴に。しかし、判決に同情した不良の親分は、「父ちゃんには、もう会えねぇぞ」「30年の禁固刑。それも、重労働だ!」「もう、払ってある。上げてやれ」と言って、窓まで登らせてくれる。顔を蹴られたせいで「父さん」と小さな声で呼ぶジャクーを見て、みんなで「父さん」と叫んでやる子供たち。ジャクーは最後に父を一瞥することができた。
  

ある日、ジャクー母子は、川原で農婦が集団で春の大洗濯をしている場に来た。「息子を使って下さる?」。農婦の頭は「いいわ、でも 条件が一つ。あんたが、誰かは知らないことに」。しかし、休憩時間に、偶然、伯爵の小さな娘が豚に襲われかけたところを助けてしまう。ジャクーがいることを知った村長は、「お前の父は死んだ」と言いわたす。そして、農婦たちに「何で、こいつがいるんだ?  殺人犯の息子が!」「とっとと、出てけ!」とジャクーを追放する。
  

居場所のない2人。母はジャクーを伯爵の城が対岸に見える崖に連れて行き、「呪われるがいい、下劣なケダモノめ!」「石には石を!  いつの日か、お前は滅び去るであろう!」「お前のすべてを、呪ってやる!」と叫ぶ。しかし、雨に打たれて衰弱し、廃屋に辿り着いた頃は高熱を出していた。「寒い」。「大丈夫だよ、母さん」。「離れないで」。「一緒だよ、母さん。ここにいるから」、と上半身裸になって、母を暖めるジャクー。しかし、翌朝には母は冷たくなっていた。
  

ジャクーは、町の雪道を足を引きずって歩いていた。凍傷気味なのだ。足が痛くて座り込む。たまたま、居合わせた2人組の少年乞食は、誰も恵んでくれないので、「何て冷淡な奴らなんだ。哀れんでもくれない」「ろうそくだって食べれるぜ」と言い、「なあ、寝る場所でも探しに行こうぜ」と誘ってくれる。しかし、「後で行くよ。疲れたんだ」と断る。もう限界だったのだ。頭の上の窓辺に置かれたランタンからロウソクを抜き取ると、試しに食べてみるが、少しかじってやめた。
  
  

マッチ売りの少女を思わせるシーンだ。少女はその場で息を引き取ったが、ジャクーは、近くの教会の墓地まで何とか歩いて行き、月に向かって「父さん助けて。もう力がない。二人に会いたいよ」と言うと、重ね着をしていたボロを過ぎ捨て、上半身裸になって雪の地面に横になった。これほど可哀想なシーンを映画も観たことがない。
  

梟の鳴き声に窓を開けた司祭がジャクーを見つけ、一緒にいた医者と部屋に担ぎ込み、雪で全身をこする。体には雪がついたまま、足は黒く変色している。介護の甲斐もあって一命を取り留めたが、生きる意欲のないジャクーは何も食べようとはしない。しかし、晴れた日、外のベンチで木に寄りかかっている時、昔、洗濯場でジャクーを見初めたリナが気付き駆け寄る。最初は無反応なジャクーだったが、頭を抱いて「戻って来て、ジャクー」と呼びかけるリナの声に反応し、遂に目が生き返る。そして「お腹すいた」と一言。ここも感動的なシーンだ。
  

話せるようになったジャクーを司祭が質問攻めにする。最初はごまかしていたが、父が連行されて行った雪の日に「お前を見た。お前は、村外れの雪の上で、跪いていた」と言われ、「僕はジャクー・フェラール。父さんは、牢獄で死に、母さんは、悲しみで死んだ。僕は伯爵の森で暮らしてた。神がいるのなら僕を死なせてくれたはず。神は貧乏人は助けないんだ!」と一気に話す。食べようとしないジャクーを、「生を感謝せよ。自己憐憫に時を費やすでない。恩知らずな態度は自らを蝕むだけだ」と優しく諌め、ジャクーも「いただきます」と食べ始める。生涯、ジャクーが代父として尊敬する友の誕生だ。
  

健康を取り戻したジャクーはリナと仲良しになった。ジャクーが少年から青年にスイッチする場面は、とてもシャレている。子供の2人が花の野原を駆けてくると、カメラはそのままで、一旦丘の陰で2人が見えなくなる。次に現れるのは大人になった2人だ。
  
  

後は、簡単に重要な場面の紹介。村の秋祭りに乱暴に乗り込んできた伯爵の一行。ダンス競技会に参加する。途中で失格となり、怒って競技をやめさせるが、それに抗議してジャクーとリナは音楽もなしで踊り始める。それに感動した村人が叩く手拍子で踊り続ける2人。
  

以来、ジャクーを自分への反抗者と位置付けた伯爵は、秘密裏に捕らえ、城の地下にある井戸に投げ込む。水死させる算段だ。しかし、ジャクーは、井戸の壁に排水路のあることを見つけ、穴を広げて脱出する。このことで、ジャクーは城への侵入路を知るが、後の城攻めの時の勝因となる。
  

村人寄りの司祭は伯爵にとって邪魔な存在であり、機会を捉えて罷免する。ちょうどその日、ジャクーと医者とワインを飲もうとしてセラーに行った司祭は発作に襲われる。「あと数分。数分をお与え下さい」と神に祈ると、何とか食卓に戻り、2人に祝福を与えて絶命する。
  

遂に、村人が一揆を起こす。ジャクーの戦略で、正面から松明で脅し、ジャクーが見つけた排水口から侵入して内部から襲う巧妙な方法で、城を焼け落とす。そして、一揆の責任を一人で負って望んだ裁判では、途中で王の退位が伝わり、判決は予想と違いジャクーの逆転勝利で終わる。「本件は、農民の反乱の歴史の一環と判断する。無慈悲かつ驕傲な領主による、容赦なき圧制によって引き起こされたものとして」。伯爵は破滅し、復讐は成し遂げられた。
  

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